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近江八景
[オウミハッケイ]

ジャンル 地唄・箏曲
山田流
作曲者 山登万和
作詞 福城可童
調弦 箏:半雲井調子-四上り平調子
三絃:本調子-三下り-本調子-二上り
  春秋の、眺めつきせぬにほの海、
  霞のひまに見わたせば、波の粟津の雲晴れて、
  千船百船ちふねももふね打ち出での、浜をあとなる追風に、
  真帆あげ帰る矢走潟やばせがた

  はや夕日さす浦々の、景色を見つつわたるには、
  瀬田の長橋ながからず、眺めるうちに三井寺の、
  入相いりあいつぐる鐘の声。

  比良の高根は白雪の、やや肌さむき浦風に、
  おつる堅田のかりがねも、数さへ見えて照る月の、
  影もさやけき石山や、昔の跡のしのばれて、
  夜半の時雨も唐崎の、松には千代の声すなり。

  君がみいづのあきらけく、治まる御代にあふみ路や、
  名にきこえたる八つの名どころ。
訳詞 一年中景色がよくて、眺めが尽きない琵琶湖の霞の合間を見渡せば、湖浜の粟津は雲が晴れて(粟津の晴嵐)、沢山の舟が漕ぎ出してゆく。浜を後に追風を帆いっぱいに受けて、矢走潟を帰ってゆく(矢走の帰帆)。

はや夕日がさす浜辺の景色を見ながら、琵琶湖を渡ってゆくと、周囲の美しい景色に見とれて瀬田の長橋は長いような気はしない(瀬田の夕照)、眺めて行くうちに三井寺の夕暮を告げる鐘の音が聞こえる(三井の晩鐘)

比良山の高根は雪に覆われており(比良の暮雪)、少し肌寒い湖の風に、落ちてゆくような堅田の雁の群れも(堅田の落雁)、数さえ数えられるぐらいに月が明るい。石山寺の月を見れば(石山の秋月)、紫式部がここで、源氏物語を書き初めたと言う、昔の後もしのばれ、夜半の時雨の降りかかる唐崎の松には(唐崎の松)、千代めでたしの声がするようである。君のご威光も明らかに、太平に治まる時代に生まれた幸せを思い、ここに天下に聞こえた近江八景の景観を叙する。
補足 山田流箏曲。奥歌曲。
琵琶湖畔の八つの名勝を、昼から夜へと時間的推移によって叙し、聖代を祝し、八景の有名なことを唄って結ぶ。前弾がつき、二つの合の手が入る。最初の合の手には地歌の『ゆき』の手を利用。中歌の冒頭は清元ガカリともいわれる高音域の聞かせどころ。後の合の手は、マクラ・手事・チラシという手事物形式を模した構成で、巣籠地をあわせる。
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