ジャンル |
地唄・箏曲 箏組歌 裏組 |
---|---|
作曲者 | 三橋検校 |
調弦 | 平調子 |
唄 |
一 思ふこと 言はでや遂に 山城の 宇治の渡りの 憂き瀬にも 浮みも果てぬ行方こそ なかなかなりし恨みなれ 二 憂き世を渡る柴舟の 水馴れ水馴れて差す竿の 雫を見ればいつとなく 物思ふ袖もかくばかり 三 身を分る事は難しや玉櫛笥 二道掛るわりなさに 思ひ乱れてうち返す 心一つの苦しさよ 四 小野の住居の自から 聞えやありとつつましく 峰の嵐やさ牡鹿の 声にも立てずなりにけり 五 古への 二歌ならで なにとなく 心床しの 手習ひは つれづれなる日暮 忍び忍びの涙なり 六 田の面の秋になりぬとや 稲葉に交る少女子が 声はをかしううち添へて 歌へば空に雁ぞ鳴く |
訳詞 |
1.自分の心の思いを打ち明けずに、ついに宇治川の渡し場の浮き早瀬に身を投げたが、死体となって浮くことも出来ず、これからの生きていく先はかえって恨めしいことだ 2.辛い世の中を行き交う柴を積んだ舟の、よく水に馴れている竿に伝う雫を見ていると、いつとはなしに物思いに駆られて、袖もこのように濡れている 3.この身を二つに分けて匂宮と薫君とにまみえることは難しいことである。玉櫛笥の箱とふたとは分けられないように、二道かける苦しさに、一つしかない心は何度も何度も思い乱れている 4.小野に住んでいることが自然と世に聞えはしないかと包み隠して、峰の嵐や牡鹿の声にも答えないようになってしまった 5.幼い頃の手習いで教わった難波津や浅香山の古歌ではないけれど、なんとなく心床しくしてくれる手習いは、退屈な暮らしを紛らわせるが、それでも我慢を重ねていると悲しくなり涙を流すのである 6.小野の辺りの田の表面も秋になってしまったと、稲刈りに出ている若い娘たちが歌っている声が興味深く聞こえてくるが、その声に合わせて空では雁が鳴いている |