ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 山田検校 |
調弦 |
箏:雲井調子 三絃:三下り |
唄 |
今日を、門出の旅の空、うかるる声もはりまなる、 などころ所たづぬれば、心ときめく眺めかな、 山鳥のかねは晩鐘の、むつましづきのなかなかに、 ひとりぬるのを花にして、その花てふもしづやかに、 賤のわらべにこと問へば、おのれを名のるほととぎす、 飛び行く方は高浜の、晴るる嵐にさそはれて、 飾磨に帰へる帆はちらちらと、夕照傾めに高砂の、 松は千とせのいろなほふかく、ひく人多き手がら山、 おつるかりがね立つ鷺山に、つばさまじふるその数は、 三五夜中の秋月、ち里の外の人心、千千にうつろふ秋の空、 別府の夜雨きく手枕に、夢も結ばぬよなよな、 思ひはいとどます井山、積るが上に積る雪、 これぞまことに豊なる、年の貢と知られたり、 あらよろこばしやこの望み、足ぬるもげに君が代の、 なほひさかたの雲のあや、五風十雨のほどほどに、 時をたがはぬ八つの景色。 |
訳詞 |
今日を旅の門出と思うと、うかれて出す声も張りがあり、播磨の名所を訪ねれば心のときめく眺めであるよ。 峰の鐘はいりあいの六つ時をしらせる。 仲睦まじい睦まじ月の間柄もよいが、それより却って独り寝の方が興がある。 興といっても静かなもので、賤の童に尋ねてみれば、時鳥がかわって答えて鳴いている。 飛び行く方は高浜の晴嵐にさそわれて、飾磨に帰る帆はちらちらと見え、夕照は斜にかたむいて、高砂の松は千年も変らない色は深い。 手を引いて訪ねる人の多い手柄山には雁が舞い降りるし、飛び立つ鷺のさぎ山には翼を交わすその数は三々五々とちりぢりに十五夜の輝く秋月に照らされて飛び行くのが見える。 千里も離れたところの旧友に対する人心は名月をみて色々に移り変わる秋の空である。 別府の夜雨をきく手枕は安眠が出来ず、物思いが増すばかりである。 増井山に積った雪、それは豊年の貢と昔から言われている。 あら喜ばしいことよ。 この望みは満ち満ちて、本当に君の御代は雲の動き模様で五日目の風、十日目の雨と天候が順調に運び、四季折々の移り変わりに順応して、それぞれ捨て難い美しい眺めのある八景であるよ。 |
補足 |
山田流箏曲。中歌曲。八景物。 播磨の八景を四季の順に配した詞章。 のちの『春日詣』・『近江八景』などに影響を与えた。 旅人の出をあらわす前弾は河東節の『灸据』の手を取り入れたものという。 前半の末尾の別府の夜雨を歌った部分に箏組歌『心尽くし』の句の一部を引く。 次の合の手は長唄の『琴の合方』などの「管弦」の手に導かれ、最後の「あら喜ばしや」から気分を変えて道行物らしい結びとなる。 |