ジャンル |
地唄・箏曲 その他 |
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作曲者 | 宮城道雄 |
作詞 | 土井晩翠 |
調弦 |
箏(本手・替手):中空調子 尺八:八寸管 |
唄 |
あるじはたそやしら梅の、香りにむせぶ春の夜は、 朧の月をたよりにて、しのび聞きけんつま琴が、 そのわくらばの手すさびに、そぞろに酔へる人心。 かすかにもれし、ともし火に、花の姿は照りしとか。 たをりははてじ花の枝、馴れしやどりの鳥なかん。 朧の月のうらみより、その夜くだちぬ春の雨。 ことは空しく音を絶えて、いま将しのぶ彼ひとり、 ああ、その夜半の梅が香を、ああ、その夜半の月影を。 |
訳詞 |
宿の主人は誰であるか知らないが、白梅の花の香りにむせぶ春の夜に朧月をたよりにして、こっそり人目を避けて言って聞いたつま琴は、たまさかの手慰みに弾いたのであるが、その音色は何とはなしに自然と酔ってしまう人心である。 かすかにもれた灯火に花の姿は映し出されたとか言うのであるが、その花の枝を全部折るようなことはしますまい。 というのは、ここをせっかく馴れた宿としている鶯は自分の宿がなくなったと悲しんで鳴くことであろうから、朧月の晴れやらない恨みから、その夜勢いなく降り来る涙の春の雨である。 琴は空しく弾く音を止めて、ああ、その夜の梅の芳香や、ああ、その夜の月光のあわれさなどを、今彼一人、また再びいかなるやと深く思い慕うのである。 |
補足 |
新日本音楽。箏と尺八による手事物。 朝鮮京城在住中の作曲者が、内地での修行旅行中に伝授された阿波徳島伝承の箏曲『嵯峨の調』にヒントを得て作曲したもの。 歌詞は土井晩翠の詩集『天地有情』所収の『はるのよ』から引用。 曲は前弾・前歌・手事・中歌・手事・後歌という構成。 手事の部分に付される箏の替手は、1919年の第1回作品発表会の前に、また尺八パートは1924年の第1次台湾演奏旅行の前に、それぞれ新たに作曲された。 |