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花の旅
[ハナノタビ]

ジャンル 地唄・箏曲
端唄物
作曲者 峰崎勾当
作詞 油屋茂作・秤屋九兵衛
調弦 三絃: 三下り - 本調子
箏: 雲井調子
  はる風に靡く姿や浅緑あさみどり、好いた仕打しうちに誘はれて、
  思ひ立つ名の出口でぐちの柳、

  [合の手]

  都を過ぎて此所ここかしこ、八ちやう所描ところかきちらす、
  ひとふうかはる大津絵の、七つ道具の武蔵坊、
  かたい石場いしばあひだより、ぬるりぬるりと瀬田うなぎ
  長い旅路たびぢを踏みわけて、草津の里の姥が餅。

  [合の手]

  つくつくつゑの下くぐる、目川めがはの水の忍ぶ恋、
  なんぼ石部いしべのお前でも、心たがはすその手くだ、
  座敷騒ぎをかこつけて、踊子汁をどりこじる水口みなぐちに、
  うまい首尾しゆびじやと登りあふ、
  阪は照る照る鈴鹿と合ひの、

  [合の手]

  あひの土山つちやま、雨にしつぽりと、大竹小竹おほたけこたけさかした
  心のたけつくされぬ、筆捨山ふですてやまのその中を。

  [合の手]

  関にせかかる椋本むくもとの、娘ごころの一筋に、
  津の町通る阿弥陀あみだ笠、人目かまはぬ旅の空、
  雲出くもづの河を高からげ、又の泊りを松坂と、

  [合の手]

  黄楊つげ櫛田くしだも通り過ぎ、かみの油の口上手、
  煙草入売る小林屋、伯父も伯母御おばごも買うて行く、
  数は積るに限りなき神の恵みの山田へ。
訳詞 春風に靡く姿は芽の吹いたばかりの柳で、好いた情夫の取り成しに誘われて、思い立つ浮名の出る出口の柳から都を過ぎて此処彼処と八町三所描き散し、一風変わった大津絵の七つ道具の武蔵坊の絵がある。
堅い石場の間からぬるりぬるりと瀬田川の鰻が取れる。
鰻の長い旅路を踏み分けていくと、草津の里の姥が餅の搗かれる、杖をつきつつ下って行くと、目川の水の目を忍んで恋をする。
どんなに堅い石部のお前だとしても、心を変わらす扱い方に座敷騒ぎにかこつけて、泥鰌汁は皆水口がうまいとて男女連れ立ち登っていく。
馬子唄に阪は照るてる鈴鹿は曇る合間の愛する土山では雨にしっぽり濡れる。
大竹小竹の阪の下、心のたけを充分言い尽くされず、意のままにならない筆を捨てる筆捨山のその中の、関所にせかれる椋本の娘心の一筋に津の町を阿弥陀笠が通るのである。
人目などかまっていられない旅先のこと、雲出の河では高からげて渡り、翌日の泊りは泊りを待つ松坂でと告げる黄楊の櫛なる櫛田を通り過ぎ、神様の髪の油のように滑りよく口上手にしゃべる煙草入を売る小林屋から伯父も伯母も煙草入を買って行く、その数は限りないが、神の御恵も限りなく伊勢山田へと上り行く。
補足 三下り端唄。
京島原の出口の柳を起点として伊勢参宮に至るまでの道中を歌った、一種の参詣道行物。
道中の地名や名物などを綴って歌詞とする。
舞で行なう場合は「変化物」としても扱う。
早い時期から箏曲化され、京都では八重崎検校の手が、唄の譜とともに『千重之一重』に収録されるほか、山田流にも摂取され、現在ではむしろ山田流箏曲として行なわれることが多い。
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