ジャンル |
地唄・箏曲 端唄物 |
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作曲者 | 峰崎勾当 |
作詞 | 流石庵羽積 |
調弦 |
三絃:本調子 箏:低平調子 |
唄 |
花も雪もはらへば清き袂かな。 ほんに昔の昔の事よ、 わが待つ人はわれを待ちけん。 鴛の雄鳥に物思羽の、 凍る衾に鳴く音はさぞな、さなきだに、 心も遠き夜半の鐘。 聞くも淋しき独り寝の、枕に響く霰の音も、 若しやといつそせきかねて、 落つる涙の氷柱より、 つらき命は惜しからねども、 恋しき人は罪深く、思はぬことの悲しさに、 捨てた憂き、捨てた浮世の山かづら。 |
訳詞 |
花の雪も美しく好ましい物ながら、一面移ろいやすく頼みがたいものであって、執着することの無為を覚り、今は全てを払い去って、袂も軽々とした清い心境で俗塵に煩わされるものは何もない。ああ、思えば遠い昔のことであった。お互いに相愛の情に繋がれて、私が待つ人も、私を待った夕べもあったことであろう。 しかるに、男心の変りやすく、鴛鴦の雄鳥の無情さに、目鳥が世寒の声も、さぞかしと思いやる身の上になり、そうでなくても、気が遠くなるような心細い夜半の遠寺の鐘が聞こえて来る。 その鐘を一つ二つと数えている淋しい独り寝に、霰の音がぱらぱらと枕に響いてくる。もしや昔の人が戸を叩くのではないかと欺かれては咽び泣いたこともある。このようなつらい命は今更惜しくはないが、変らじと誓った人が私を顧みないのは、深い罪であるまいかと、それが気にかかって、捨て去った浮世ではあるが、なお、かの人のことが懸念される。 |
補足 |
本調子端唄。「三つ歌物」の一つ。 冬の夜に大阪南地の芸妓ソセキが、来ぬ人を待って夜を明かすこともあった過去を回想しつつ仏門に入った現在の心境を述懐したもの。「若しやいつそせきかねて」と詞章中に名が読み込まれる。 合の手は鐘の音の描写であるが、「雪の手」として知られ、歌舞伎芝居などの下座に誤って雪の降る描写に取り入れられる。 |