ジャンル |
地唄・箏曲 手事物 |
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作曲者 | 松浦検校 箏手付け:八重崎検校 |
作詞 | 京都の赤尾某 |
調弦 |
三絃:本調子-二上り-高三下り-高本調子 箏:半雲井調子-平調子-中空調子 |
唄 |
限りなく、静かなる世や吹く風も、 勿来の関の山桜、鎧の袖に散りかかり、 花摺衣陸奥に、駒を進むも君のため。 弓を袋に鋤鍬や、案山子を友と野辺の業。 菜摘み水ひき貢とり、薪を肩に彼処なる、 木の間の月を楽しみて、山路の憂きを忘れめや。 雨露霜を凌ぐ身の、工匠は墨と曲尺てより、 大宮造り殿づくり、烏帽子素袍も華やかに、 賊が軒端も建てつづき。 錦織るてふ機ものの、 夜寒むいとわじ綾とりの絹、 染めて貴賊の色分かぬ、同じ眺めは白妙に、 雪は一入きぬぎぬの、情け商なふすぎはひに。 姿言葉は賤しくて、心ばかりは、皆やさしかれ。 |
訳詞 |
打ち続く泰平の御代はありがたい限りである。それにつけても、昔、「風よ吹くな」と詠った、奥州勿来の関の源義家の歌が思い出される。義家は桜の花びらの降りかかる勿来の関を後に、未知の陸奥に大軍を率いて、内乱平定の苦難の道に赴くものも、大君のためであった。 現在は弓は袋に納まる平和の時代である。農民は鋤鍬を手に、案山子をともに、安んじて農業にいそしんでいる。野菜を作りながら、一方、田に水を引いて稲を収穫する。また、庶民の燃料になる薪を山に取りに行き、日暮れになるまで立ち働く。かように農民は辛苦の毎日ながら、帰路は木の間から美しい月を眺めて、山路の苦労を忘れるのである。 大工は墨縄と曲尺とで家を建てる。豪華な神社仏閣も壮麗な宮殿も、皆大工によって立てられる。そのときの大工は烏帽子素袍の、華やかな儀式姿であるが、一般民家のあばら家も建ててくれるのである。 錦も織るという機を扱う人は、寒い夜もいとわずに仕事にいそしむ機織り女である。機を織るにはまず絹を染めるのであるが、色に貴賎はない。白妙の雪と白絹とは同じ眺めではなるまいか。きぬぎぬの情けということがあるが、機織り女はその情けを商っているのである。姿や言葉は粗野であっても、心は皆優しくありたいものである。 |
補足 |
京風手事物。「松浦の四つ物」の一つ。 士農工商の四民の生活を題材にして、ほぼ四季に配したもの。 手事は、マクラ初段(手事初段とも)・マクラ後段(手事二段とも)・手事・チラシの構成で、マクラが長いのが特徴。 |