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臼の声
[ウスノコエ]

ジャンル 地唄・箏曲
山田流
作曲者 山登松齢:移曲 (原曲『夏衣』)
調弦 箏:半岩戸調子-雲井調子
三絃:低二上り-三下り-本調子
  おぼろ夜の、影は霞の薄ものに、こぼれて匂ふ梅が香も、
  日数にうつる春暮れて、夏立つけふの薄ごろも、
  うす紫のあふちかげ。

  涼しき風に秋の立つ、うす霧なびく初尾花、
  ほのかにうすく暮れそめて、木々うす高き山風に、
  月すむ秋の琴のこえ、夜寒むの雁も音をそえて、
  そともの木々の薄紅葉。

  いそぐ時雨の朝戸出に、庭のうす雪めづらしな、
  なげの情けの筆のあと、墨うすからぬ玉づさに、
  契りは何かうすからむ。

  うすきへだての賊が家に、稲つく臼のつちのうた、
  拍子も風に通ひきて、うたふこえごえおもしろや。
訳詞 春の朧夜の月の光は、薄い織物のような霞にかかって美しく、匂いこぼれるような梅の香りも、日数を減るごとに次第にうせてゆき、春もいつの間にか過ぎて夏となり、今日から薄物の夏衣を着るようになった。今日この頃は、栴檀の木の枝枝に薄紫の花を咲かせている。

涼しい秋風とともに秋が訪れる。薄霧が立ち込めて、その中に初尾花の風に靡く姿がほんのりと見える。陽が落ちて仄かな夕暮になると、木々のこんもり生い茂っている高い山から風が吹き降ろし、秋の月は澄む。どこからともなく琴の音が聞え、秋の雁はその琴の音に調子を合せながら、夜空を鳴いて渡ってゆく。外は木々の葉が早紅葉して薄紅になっている。

時雨が降って紅葉の色が増してくれればよいと思っているうちに、もう冬が来た。朝、とを開けて外に出て見ると庭に薄雪が降っていた。今頃雪が降るのは珍しいことだ。雪で思い出すことだが、ただ表面だけの誠実のない心で書いた手紙をもらっても味気ない思いをするだけだが、墨の色も濃く真心の程も察しられる手紙には、それによって結ばれた契りは薄かろうはずはない。

薄い壁や板などで作られている粗末な家の農家で歌っている稲をつく、いわゆる米搗き歌の拍子が風のまにまに聞こえてくるのは興味深いことである。
補足 山田流箏曲。奥歌曲。地歌移曲物。
「臼」の縁で、薄もの・薄衣・薄紫ほか「うす」という語のつくものを並べる。
構成的には四季物の一種で、各季節の合間に合の手を挟む。最後の合の手はやや長めで、手事を模した聞かせどころ。
夏の部の後の合の手に『六段の調』の初段を地として合せる。
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