ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 山田検校 |
調弦 |
箏:半雲井調子-四上がり平調子 三絃:本調子-二上り |
唄 |
夏の夜の、あくるまはやみかりそめに、 見るほどもなき月かげを、惜むとすれどいねがての、 枕にかこつほどさへ、たえてしのべとおとづれぬ、 うしやつらさの人ならば、うらみもはてむかにかくに、 雲井に遠きまつち山、こころせきやの里吹く風に、 雨もつ空のさつきやみ、闇はあや瀬の川船に、 うきねしつつも聞かまほし、 かくばかり待つとはなれもしら髯の、 森の下露くさぐさに、 よのみやびをのあこがれて君待つ夜半に かはらぬはただひと声のほととぎす。 |
訳詞 |
夏の夜は短くて夜が明けるのが早く、月光をほんのちょっと見る間もなく明けるのである。 惜しもうとするが、そのひまもない。 時鳥の声を聞きたくて眠りにくく、枕に愚痴を言うが、堪えて我慢しなさいといって訪れてくれない。 もしもこれが恋人であるなら、思う存分恨んでやるものを、とにかく遥か彼方の空の待乳山と待たされて心がせかれる関屋の里を吹く風に、胸は雨を含んだ空の五月闇である。 闇はあやなく、あや瀬に浮んだ川船に浮寝をしてまでも聞きたい時鳥の声であるよ。 これほどに待つとはお前も知らないであろう。 白髯の森の下露の置いた草草と、色々な心を持った風流人は心惹かれて、恋人を待つと同様に待たれるものはたった一声の時鳥の鳴き声であるよ。 |
補足 |
山田流箏曲。中歌曲。 隅田川畔の地名を読み込みながら、時鳥の初音を求めて、夜を徹して隅田川を船でさかのぼる風情を歌ったもの。 前弾は後代の曲に応用されることが多い。 後半の「聞かまほし」の後の合の手の手に『六段の調』の初段が地として合わされる。 |