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小督の曲
[コゴウノキョク]

ジャンル 地唄・箏曲
山田流
作曲者 山田検校
作詞 不詳
調弦 箏:片岩戸調子 - 雲井調子
三絃:二上り - 三下り
一 牡鹿鳴く、この山里と詠じけむ、嵯峨のあたりの秋のころ、
  千草の花もさまざまに、虫の恨みも深き夜の、
  月に松虫招くは尾花、萩には露の玉虫や、そよぐをぎ虫くつわ虫、
  鳴く音につれて仲国が、寮の御馬おんうま賜わりて、宿直とのい姿の藤袴。

二 たづぬる人の面影に、立つ薄霧の女郎花をみなえし、それからあらぬか幻の、
  蓬が島根たづねわび、駒引きとむる笹のくま、
  やすらふかげの松風に、通ふ爪音つま恋ひの、
  音による鹿にはあらねども、昔おぼゆれ笛竹や、
  合わす調べにまがひなき、声をしるべにしたひよる、
  嵯峨野の奥の片折戸、想夫恋の唱歌は、比翼のつばさの雲井恋ひ、
  盤渉調ばんしきちようの調べは、松の連理の枝にかよふ。

三 小督の局、世をしのぶ住家も、あすは大原に、
  かへん姿の名残りとて、夜半に手ならすつま琴の、
  岩越すおもひせきかねて、涙に袖をかしはばや、
  人目もいかがあやめがた、糸の色音をしるべにて、
  さし入る月の雲井より、御使にまゐりしと、
  かしこき君のみことのり、野辺のおち方わけ来つる、
  露の玉草さしよする、妻戸のはしの縁の綱、
  またひき結ぶ御かへりごと、添へて賜わる五衣いつつぎぬ
  きぬぎぬおくるほどもなく、迎ひの車たてまつり、
  昔にかへるももしきや、千代を契りの松の言の葉。
補足 山田流箏曲。奥四曲の一つ。
「平家物語」に取材。仲国が小督を探し出し都へ連れて戻るまでの筋を情景・叙情的表現に主眼を置いて描く。
前弾は『須磨の嵐』にも応用。虫の音、馬の足音、松風の音などの描写に、先行の箏曲や地歌・河東節の一部をたくみに取り入れ、小督が隠れ住む嵯峨野の秋の情趣を表す。
同様の歌詞内容の曲に嵯峨の秋がある。
2の「笹のくま・・・」の次の合の手は「楽」の直前にも使用。『桜狩』『ほととぎす』などにも異なる表現として用いられるほか、長唄『安宅』『鷺娘』などにもある。次いで、「想夫恋の曲」にちなみ、「楽」となり、その後『松風』などにも用いられる箏の楽器の名尽くしで小督局の住まいを描写。
長唄『喜三庭』はこの曲を元に作曲された。同様の題材を扱ったものに『嵯峨の秋』がある。
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