ジャンル |
地唄・箏曲 箏組歌 奥許 |
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作曲者 | 三橋検校 |
調弦 |
平調子 序歌の第4句目から半中空調子 |
唄 |
序 華清の春の朝霞 柳桜の色深く 錦の袂薫り来て 行幸を待つぞ麗はしき 一 宮の鶯花に鳴き 軒の燕は雨を呼ぶ 羨ましきは己が身の 心の儘に任すらん 二 楊家を出でしその色に 君の心を惑はされ 一人の他は眼につかで 遠ざくるこそ恨みなれ 三 選ばれ出し二八の春 移され来ては六十路の秋 空しき床に老い果てて 音をのみ泣くぞ哀れなり 四 芙蓉花衰へて 露の玉光なし 今は見えじな見えもせば 疎き人には笑はれん 五 壁にそむける燈し火の まだたき残す夜はすがら 窓打つ雨の音聞けば いとどさへ寝られぬ 六 たとへて言はば花鳥 文に作り詩に歌ふ 今様の姿とりどりの 中に侘しきただ独り |
訳詞 |
序.華清宮の春の朝霞に、柳や桜の花の色が濃く、その色のように鮮やかな錦の衣装を着た美人の袂から芳香が漂い、皇帝のおでましを待つ様子は美しい 1.上陽宮の鶯は花に来て鳴き、軒端の燕は雨を呼んでいる。鶯も燕も自分の心の赴くままに行動しているのが羨ましい。(燕にたとえられる楊貴妃はともかく、かつて宮の鶯を言われた私は実際の鶯のようなわけには行かない) 2.皇帝の心は楊家出身の妃の容色に惑わされて、楊貴妃一人の他は目もくれず、他の女性は遠ざけられたことは恨めしい 3.大勢の女性の中から選び出されて後宮に入ったのは十六歳の春であった。今、この上陽宮に追いやられて、独り寝に空しく年を過ごし、忍び音に泣くばかりであるのは哀れである 4.蓮の花のように美しかった顔も盛りを過ぎて、露の玉のような光もなくなってしまった。今はもう疎遠になってしまったあの方に笑われるだけであろう 5.壁際に寄せた灯火が、まだ消えずに残っているのは、夜通し来ぬ人を待っているためであるのに、窓を打つ雨の音を聞くと、いよいよ目が冴えて寝られない 6.たとえていうなら、花や鳥のように、文にも作られ詩にも歌われて、今もてはやされる人は取りどろたくさんある中に、上陽宮に追いやられて、ひとりわびしく過ごしているのは、私(梅妃)だけである |