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八重衣
[ヤエゴロモ]

ジャンル 地唄・箏曲
手事物
作曲者 石川勾当 箏手付け:八重崎検校
調弦 三絃:本調子
三絃替手:本調子-三下り-本調子-三下り-本調子
箏:半雲井調子-中空調子-平調子-半雲井調子
一 君がため 春野に出でて 若菜摘む
  わが衣手に 雪は降りつつ

二 春過ぎて 夏来にけらし しろたへの
  衣ほすてふ 天の香具山

三 みよしのの 山の秋風 小夜ふけて
  ふるさと寒く 衣うつなり

四 秋の田の かりほの庵の とまあらみ
  わが衣手は 露にぬれつつ

五 きりぎりす 鳴くや霜夜の さくしろに
  衣かたしき 独りかも寝ん
訳詞 1.『古今和歌集』 光孝天皇
あなたにさし上げたいと思って、まだ春も浅い野辺に出て、若菜を摘んでいると、私の着物の袖に、ちらちら降る雪がかかっている。

2.『新古今和歌集』 持統天皇
もう春も過ぎて、いつの間にか夏がやってきたらしい。濃い緑色に包まれた天の香具山の辺りに、真白な着物が干してあるのが点々として見える。

3.『新古今和歌集』 藤原雅経
吉野山を吹き渡る秋風が、夜の更けて行くにつれて身にしみ、山の懐に抱かれて眠る急と吉野の里も静まり返って、砧を打つ音が寒そうに聞こえて来る。

4.『後撰和歌集』 天智天皇
黄金色に熟れた稲穂が、冷たい秋風にさらさらと音を立てている秋の田の辺に、仮に造った小屋に番をしていると、その屋根に吹いたとまが荒いから、隙間から冷たい夜露が、しきりに洩れて私の着物を濡らす。ああ、つらいことだ。

5.『新古今和歌集』 藤原良経
こおろぎが鳴いて、霜の降りるこの寒い夜に、筵の上に片袖を敷いて、淋しく独りで寝るのか。侘しい限りだなあ。
補足 京風手事物。「石川三つ物」の一つ。
「小倉百人一首」から「衣」の語を含んだ和歌五首を四季の順に配し、最後の歌のみ下の句を反復させる。
手事は前後二回あり、箏の左手のハジキが多用される。
前の手事は、手事・中チラシ・手事・本チラシからなり、砧を描写。光崎検校の『五段砧』に影響を与えたという。
後の手事は、手事・後チラシの構成で、三絃と箏の騒音的効果を組み合わせて虫の音を表現したものとされる。 後チラシは「百拍子」といわれる手。
三絃本調子で通すところが難曲とされる所以。
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