ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 千代田検校 |
調弦 |
箏:平調子 三絃:二上り |
唄 |
なよ竹の、夜の間の夢のみじかきに、 ながながしくもくりかへす、軒の糸水いとどしく、 まきの板戸のあけくれに、しめりがちなる寝屋のうち、 うつらうつらとうたた寝の、枕に遠き時鳥、 雲間ほのかに忍ぶ音も、ゆかしやままにならぬ身の、 うきかずまさる夏草の、鐘をばよそに聞き捨てて、 まだたき残るかやり火の、もゆるばかりの物思ひ、 はるるまもなき夜半のさみだれ。 |
訳詞 |
なよなよした竹の節なる夏の夜はまどろむ夢が短いのに対して、長く繰り返して落ちる軒端の糸のような雨垂れの音が大変聞こえる。 槙の板戸を開けるではないが、明け暮れに、戸を閉めるではないが、涙にしめりがちなる寝屋のうちでうつらうつらとうたた寝をしていると、その枕辺に、遠くからホトトギスが雲間からかすかに人耳をはばかって鳴く音が聞えて床しく思われる。 意のままにならない我が身の憂い辛い思いが夏草の繁るように盛んに多くなる。時を告げる鐘は響くが、待つ人は来ないので、それをよそごとに聞き流し、心は炊き残した蚊遣火の燃えるように心を悩まし、晴れる時のない夜半の五月雨時であるよ。 |
補足 |
山田流箏曲。初学曲。 秋の夜に、虫の音や松風の声までが風情を添える月の美しさに寝付かれない心境を歌った。 明治期の文部省音楽取調掛の改良唱歌運動の一つとして『秋の夜』と題した替歌も作られて、1914年刊の『箏曲集、第2編』に『松虫』と改題されて五線譜が収録されている。 |