ジャンル |
地唄・箏曲 手事物 |
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作曲者 | 菊岡検校 箏手付け:八重崎検校 |
作詞 | 不詳 |
調弦 |
三絃: 二上り 箏: 平調子 |
唄 |
住むは誰。 訪ひてやみんとたそがれに、 寄する車のおとづれも、 絶えてゆかしき中垣の、 隙間もとめて垣間見や。 かざす扇にたきしめし、 空だきもののほのぼのと、 主は白露光を添へて、 いとど栄えある夕顔の、 花に結びし仮寝の夢も、 覚めて身にしむ夜半の風。 |
訳詞 | 五条あたりの貧しい家に住む女は誰であろう。訪ねてみようと黄昏時に、その家に寄せた源氏の車、しかしこの女は人目を避けて隠棲していたので、他人との交際の車の訪れは絶えてなかった。 源氏は好奇心に駆られて、その女の名や素性を聞きたく、見たく、知りたく思って、中垣の隙間からのぞいてみると顔にさしかけて覆った扇に焚き込んだ香の薫りがどことなく漂ってきて、「白露の光をえたる夕顔の花」とか「ほのぼの見つる夕顔の花」と詠ったようにぼんやりと、主の源氏は白露の光に一入美しさを加えて、見栄えある夕顔の花と見えた。その花の女と契りを結んだうたた寝に見た夢も、物怪の出現に破られ、冷めてみれば傍らに休んだ女は失神し、息を絶やしてしまって空吹く夜半の風はいとど冷たく身に染みるのである。 |
補足 |
京風手事物。 「源氏物語」の「夕顔」の巻の内容を簡潔にまとめ歌詞とする。 手事にはマクラもチラシもないが、技巧的な掛合いがなされ、虫の音集く河原院の情趣を表現する。 |