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千箱の玉章
[チバコノタマズサ]

ジャンル 地唄・箏曲
山田流
作曲者 山田検校
調弦 箏:雲井調子
三絃:三下り
  常盤ときはなる、松をひたせる千歳ちとせ河、月も夕べの品評しなさだめ、
  桂男かつらをのこおもかげゆかし、見そめてそめて染めかかる、
  竜田姫とは浮気ばかりのいろかへ、
  つゆのまもわすられむぼのなかなかは、
  いにし驪山りさんの春のその、ともにながめし花の色、
  そのことの葉もいもせどり、
  めをとのえだといひかはしまの、
  水ももらさぬ誓詞せいしのかずを、筆にちかひしすみ色の、
  濃いなか浮名のたね巻紙まきがみに、ぐちのありたけふみ枕、
  ふみがやりたやむろの君へ、
  君がなげぶし投文なげぶみなげてくどきぶみ
  夜ごとに通ふ神かけて、ほんにとりなり、よいふうじぶみ、
  一寸ちょっとこなたへかりのふみ、祈りまゐらせそろかしく、
  文も見ずとは橋立のみちよ、道のきれどできれ文いやよ、
  誓文ちかひぶみ、いよし御見ごげんとかいたるは、
  ほだしのたね縁結えんむすびぶみ、紅葉もみぢわけつつ鹿のふみ、
  思ひまゐらせそろかしく、めて嬉しきやまともじ、
  返すがへすもめでたけれ、君は千代ませ八千代ませ、
  なほいろますや万歳楽ばんぜいらく千箱ちはこ玉章たまづさたてまつる、
  これぞ久しきみつぎかな。
訳詞 四季を通じて緑を変えない松をうつした千歳河、月は夕暮の景色の善し悪しをいうように男女の品定めをしている。
やはり美男の姿がなつかしい。
姿を見て恋情をもち始め、次第に深く思いをます。
秋を司る紅葉の神の竜田姫は移り気の多い心でなく、真実心に少しの間も忘れられず、恋慕の仲は丁度唐の玄宗皇帝が離宮の驪山で楊貴妃と契った春の園のようである。
ともに花の色を眺め、語り合った言葉は比翼鳥であり、連理の枝と夫婦の誓いを言い交わし、その堅い仲は河島の水ももらさない約束を筆で契った墨色のように濃い仲である。
浮名の立つ種になる愚痴のありたけを巻紙に書いてやろう。
文をやりたい室の津の女へ、君のうたう投節に縁のある投文を投げてくどこう。
毎夜通って神に願をかける姿もよい格好の封じ文で、一寸こちらへ借りた雁の便り、逢えるようにお祈りしますとやった文も見ないとは、昔、小式部の内侍が橋立の道とうたった歌と同じよ、仲を断絶という切文はまっぴら御免よ、それより誓文は有難いもの、先ごろお目にかかったことの書いたのは心のつながりの種となり、縁結びの文であるが、それでも心をもむもみじを踏み分ける鹿と、しっかり覚悟を定めましたと書いて止めたのは嬉しい仮名文の手紙である。
かえすがえすもめでたいことであるよ。
君は千代八千代とお栄えください。
更に万歳楽のようにお栄えください。
沢山の文を差し上げますがこれこそいつまでもの変らない貢物であるよ。
補足 山田流箏曲。中歌曲。
縁語・掛詞を多用して文尽しを歌ったもの。
前弾はなく、謡ガカリで出て、桂男、立田姫から『長恨歌の曲』や『伊勢物語』へと古雅な引用を続けたあと、世話にくだけ、誓紙を交わすことから遊女の文尽しとなって、曲調も一転。
合の手をはさんで、「文が遣りたや・・・」以下、『十六番小舞』の小歌をもじった俗謡調の踊地風となり、「文も見ずとは・・・」の「返し」となる。 最後は「万歳楽」を持ち出してめでたく結ぶ。
明治期の俗曲改良運動に呼応して『関の清水』と題した替歌も作られた。
祝儀曲的性格が強く、演奏会などの最後に演奏されることも多かった。
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