ジャンル |
地唄・箏曲 箏組歌 秘曲・別組 |
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作曲者 | 生田検校 |
調弦 | 浦千鳥調子 |
唄 |
[前弾] 一 浮き立つ春の曙に 白み渡れる山の端の 雲の衣も紫の うら珍しき花の香 二 はかなしや空蝉の 世はから衣唐衣 短き夜半の夢の間に いくら優される現なや 三 秋の夜のつきにしは 我と昔を語れども 応へ涙の浮き寝をば 枕に交はすきりぎりす 四 後朝の形見とて 袖に涙は包めども 離れて落つる白玉の砕けて物ぞ悲しき 五 小野の通ひ路冬はなほ 嵐木枯音冴えて 山も露に木の葉ふる 峰の庵ぞ寂しき 六 よしあしを難波に 身をや忘れて世を渡る 海人の小舟の我からと 騒ぐや袖の白波 |
訳詞 |
1.心も浮き立つような春の夜明けに、白々と空けていく山の稜線の辺りにたなびく雲は、朝日に映えて紫色になり、辺りには珍しい花の香が漂っている 2.蝉の抜け殻のように儚いあの人との仲は、ただ衣だけが残された床で、短い夜に見るつかの間の楽しい夢に比べて、どれほども優っているない現実なのではなかろうか 3.秋の夜も尽きてしまって、月が西に入るまで、(あの人のいない所で)昔のことを我と我が身に語りかけても、元より応答はなく、涙が溢れる枕辺に、コオロギが自分に語り掛けるように鳴く 4.共寝をした翌朝、後朝の別れをするときは、淋しさに溢れる涙を、形見に取り交わした袖で被って隠していても、その人と離れて袖を離すと、あふれて落ちる白玉のような大粒の涙が砕けるのは、なんとも悲しいことである 5.小野の里への道中は普段でも寂しいところであるが、冬は一層寂しく、嵐や木枯しの音も冴え渡り、山肌もあらわになるほど木の葉が舞い落ちて、峰の庵は一層侘しい限りである 6.善し悪しもない、この難波津で我が身を忘れて世渡りをしている海人たちの乗っている小舟から、われから虫のように、私からと騒いでいる海人の袖に、白波がかかっているように見えるのは涙であろうか |