ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
---|---|
作曲者 | 初世山勢松韻 |
作詞 | 工藤春江 |
調弦 |
箏:巾上り半岩戸調子-雲井調子 三絃:低二上り-三下り-本調子 |
唄 |
[前弾] 立ちそむる霞の衣春しるき、許しの色のゆかりある、 名さへなつかしあやめがた、その琴の緒のとをあまり、 三とせの昔偲ばるる、 [合の手] おもひ出づればきさらぎや、望の夜待たでおぼろげに、 入りにし月の顔ばせを、おぼつかなくも今もなほ、 ながめやらるる大空は、恋しき人の形見かは、 残んの雪の故郷の、越路に帰る雁がねも、 花の雲間にかげ見えて、 [楽] 処女ども、をとめさびすもから玉を袂にまきて、 処女さびすも、袖打ちかへし、うちかへし、 舞ひ遊びしはかしこくも、音に聞えし滝の宮、 それは吉野のやまと琴、これは筑紫のことふりし、 [合の手] 千代のかみつ代、豊国や、とよさかのぼる朝日子の、 彦の山辺にひき初めて、幾代栄えむ松が枝に、 かよふ常盤の家の風、尽きぬしらべぞたのしかりける。 |
訳詞 |
立ちはじめた霞の衣ははっきり春であると、許しの色にゆかりのある名を聞くだけでも懐かしい菖蒲の葉の形の箏、その緒の十三絃なる十三年の昔がしのばれるのである。 懐い出せば二月の十五夜を待たずにぼんやりと入滅なさっと月光を、おぼつかなくも今でも眺めやられる大空は、恋しい人の形見ではないかと思われる。 残った雪のある故郷の北陸をさして帰る雁も、花の雲の間に姿を見せて五節舞の歌をうたう。 処女たちが慰み弄ぶ唐玉を袂に巻いて処女は慰み弄ぶ。 と、この歌をうたい、袖をかえし、かえし舞楽をやったのは恐れ多くも有名な天武天皇の御代のこと、その時弾ぜられたのは吉野での倭琴であった。 しかしこちらは筑紫の箏で、古い昔の千代の上代のこと、豊国で栄え栄えしくのぼった朝日なる彦山において弾じはじめた箏で、幾夜も栄えることであろうと思われる松の枝に通う常盤の家なる山勢家のつきず妙なる調べの響くことは楽しいことであるよ。 |
補足 |
山田流箏曲。奥歌曲。 二世山勢検校の十三回忌を追善して作曲されたもので、前半は故人を追憶、後半は山勢家の繁栄を祝した内容。 前半から後半に移る部分に「楽」が挿入され、藤植流胡弓本曲『越天楽』の一部を合わせることもある。 後半の「これは筑紫のことふりし・・・」の次の合の手は手事物形式を模した形で、序に『六段の調』の初段を合わせる。 胡弓の手付けは山室保嘉で、胡弓入りの場合は『六段』を合わせない。 |