ジャンル |
地唄・箏曲 手事物 |
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作曲者 | 石川勾当 箏手付け:八重崎検校 |
作詞 | 謡曲「遊行柳」のクセの部分 |
調弦 |
三絃:本調子-二上り-高三下り 箏:半雲井調子-平調子-中空調子 |
唄 |
一 されば都は花盛り、大宮人の御遊にも、蹴鞠の庭の面、 四本の木蔭枝垂れて、暮に数ある沓の音、柳桜をこきまぜて、 錦を飾る諸人の、華やかなるや小簾のひま。 洩れくる風の匂ひ来て、手飼ひの虎の引き綱も、 長き思ひの楢の葉の、その柏木も及びなき、恋路はよしなしや。 二 これ老いたる柳の色の、狩衣も風折も、風に漂よふ足もとの、 たよたよとして、なよやかに、立ち舞ふ振りの面白や。 げに夢人を現にぞ見る。げに夢人を現にぞ見る。 |
訳詞 |
1.都は今や春の桜の花盛りである。殿上人たちの蹴鞠の御遊びのときにも、庭の四方に植えられている柳、桜、楓、松の四本の木が、木蔭なす枝を垂れ、夕方には数多く蹴る鞠の音が周囲にこだまする。秋の錦は山にあることは誰でも知っているが、春の錦というものが初めて分かったと詠わしめた、この華麗な蹴鞠絵。御簾の内からこれを見ている女房たちの色とりどりのこぼれて見える衣の裾など美しく華やかにみえた。風の運ぶ薫物の匂う内なる女性に、柏木衛門督はかねて恋焦がれていたが、たまたま、そのお方の飼い猫が外に逃げ出し、猫が長い引き綱を引っ掛け無理に逃げようと引っ張ったので、簾が上がってしまい御姿が見えたため、さらに長い恋の患いになったというが、柏木が及ばぬ恋をしたのは由ないと同様に、このような恋物語をするのも無益なことである。 2.このような話をする私は柳の老木の精ですが。と言って、柳色の狩衣や風折烏帽子の姿で、僅かな風でふらつく足もとで、たよたよとはしてはいるが、しなやかに舞う姿は面白い。実に夢の中で見た人を、実際に今ここでみているようである。 |
補足 |
京風手事物。謡物。石川三つ物の一つ。 謡曲「遊行柳」の歌詞で、間に「源氏物語」の「若菜」の巻の柏木と女三の宮との出逢いの情景が重ねられる。 手事は前後二回あり、手事・中チラシ・後チラシの構成。 |