古典曲検索

常盤の栄
[トキワノサカエ]

ジャンル 地唄・箏曲
山田流
作曲者 山勢検校
調弦 箏:雲井調子
三絃:三下り
  [前弾]

  春きぬと、ゆふつけ鳥のひとこゑに、
  明けてかすみのせきもなく、みわたすやまはうららかに、
  うらべしづかにさざ波の、よせてはかへしゆたかなる、
  みよのためしに引く小松、

  [合の手]

  たが袖引いて姫松の、契を結ぶ玉の緒の、
  末もながきにかきかはす、その玉づさのおとづれを、
  まつみは辛やもしやたそ、よそにするすみかく筆の、
  とがはなけれど硯の海に、水さす人のつらましや、
  心のたけをひとふしに、おもひをこめてくれ竹の、
  しげりて通ふ月の夜は、しのびかねしよ浜の松、
  峯の松風さそふとも、ただひとすぢに此君と、
  わが名をたてて高砂の、松はゆかしきもろともに、
  おいせぬ宿は若竹の、わかきは名にし男山、
  谷の戸いづる鶯も、ことぶきそへて初音けふ、
  春引きのぶるつま琴の、

  [合の手]

  調はつきじ万代も、色はかはらぬときはぎの、
  みどりの空や山ぞのどけき。
訳詞 春が訪れたと鳴いて告げる鶏の一声に明けて、霞の立つのを堰き止めるものもなく、見渡す山は長閑に、浦辺は静に小波が岸に寄せては返し平和にして豊かである。
御代のめでたい例として引く小松、誰の姫松の袖を引いて契りを結ぶのか、玉の緒の末永くあれかしと、互いに書き交わす手紙の訪れを待つ身は辛いことであるよ。
他所に墨をすって書く筆の罪はないけれど、硯の海に水をさし、邪魔する人がうらめしい。
心のあり竹の竹の一節に思いを込めて呉竹のようにくれてやり、しげしげ通う月の夜は人目をしのびかねましたよ、浜の松のように待つことは。
峯の松風誘われても、ただひとすじにこの君と自分との仲の噂を高く立てて、高砂の相生の松はなつかしい。
諸共にいつまでも年寄らず若竹の若くあるのは名だたる男山である。
谷の入り口の鶯も祝って鳴いたその初音を聞いた今日に、春を奏でた琴の調べは永久に尽きず鳴り響くことであろうし、万代に色を変えない常盤木の緑の空や山は本当に長閑なことであるよ。
補足 山田流箏曲。
一覧に戻る