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芙蓉の峯
[フヨウノミネ]

ジャンル 地唄・箏曲
山田流
作曲者 山田検校
調弦 箏:雲井調子
三絃:三下り
  ましろなる、高根たかねも春は桜花、さくや姫とは神代のむかし、
  神代も花の色盛り、花の姿のいとしらし、
  しむぞいとしらし、いともかしこき人の世に、
  ふしもすぐなる竹取の、おきなが娘はよい娘、
  磨きたてたる桂の眉に、顔は照りそふ秋の夜の、
  月にかこちて故郷を、恋しがるやつ慕ふやつ、
  やつやつとを指折り見れば、二八十六にはちじふろくで、
  ふみ玉章たまづさかりが持てくる雲井より、
  ちらと見せたは冬立つそらに、降りくる雪のはだじまん、
  これ見よかしに三保の松、羽衣といふなぞかけた、
  あまつをとめはうはきかあだか、男ひでりかこのとし月を、
  しづ伏屋ふせやにかり枕、いとも繰り候、機織はたおりおりに、
  霓裳羽衣げいしやうういの曲をなし、東遊あづまあそび駿河舞するがまひ、雨にうるほふ花の袖、
  かへすたもと充満じゆうまんの、たからをあまねく世にふらし、
  施し給ふいつくしみ、つきぬその名は蓬莱の、
  山またここに富士の根の、扇の麓のすゑひろき、
  御国みくにかなめと祝しけり。
訳詞 真白な高い富士山も春は桜花に彩られ、山の御神体なる木の花さくや姫と申される方は神代の昔花盛り、花の姿の女神で大変愛くるしいお方であられた。
本当に畏れ多くも人皇の御代になって、真っ正直の竹取の翁の娘は磨きたてた桂の眉に、顔は光り輝き、その方がやがて秋の夜の月に対して嘆くようになった。
月の世界の故郷を下って恋しがり、指折り数えて十六歳、時の帝からお召しの御文を賜った。
冬が訪れ空から雪がちらちら降って、ちらと見せたは雪のような自慢のできる白い肌、これ見よがしにしたいのは御代の待つなる三保の松である。
松に掛けた羽衣は漁夫を引き寄せるための謎を掛けたのか。
さすれば天女は浮気者か、あだ者か、それとも月界では男不足か、この年月賤しい漁夫のあばら家に仮寝をし、機織をして、時には霓裳羽衣の曲をなし、東遊の駿河舞をも舞った。
そして雨に濡れた花のような美しい袖、ひらひら翻す袂を持って、沢山の宝をあまねく夜に撒き散らし、施しなさった御恵みは深く尽きない。
そしてつきないその名は蓬莱山またの名は富士山で、その御姿は扇を広げたような麓から末広がりに広がって、御国の中心なる要の山として祝うのであるよ。
補足 山田流箏曲。
富士山にまつわる二つの説話を中心にうたった歌。
一つは竹取物語で、時の帝からかぐや姫に皇紀になるよう御命令があった。しかし、その時すでに月界に上る時になっていた。
天上するに当り形見として不死の薬の入った玉手箱を置いていった。帝はこれを月界に一番近い土地に持っていって燃やしてしまわれた。
そのためその高い山をふじ(不死)山と言われるようになり、現在も煙は絶えず噴火山として月界に向って立ち上っているという話。
もう一つは羽衣伝説で、駿河有度浜に天女が天降りして、松の枝に羽衣をかけた。
それを見た漁夫はそれを取ってしまった。天上できなくなった天女は漁夫と夫婦となった。
安心した漁夫は羽衣の隠し場所を知らせた。そこで天女はその羽衣を身にまとって天上したと言う話である。
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