ジャンル |
地唄・箏曲 その他 |
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作曲者 | 不詳 |
作詞 | 不詳 |
調弦 |
三絃: 二上り - 三下り 箏: 平調子 - 中空調子 |
唄 |
国土完全長久と。栄花も弥増しに猶喜びは増り草の、 菊と盃とりどりにいざや呑ふよ。廻れや盃の流れは菊水の、 流に引かれて疾く過ぐれば手まづ遮ぎる菊衣の、 花の袂をひるがへして、差すも引くも光りなれや。 盃の影の廻る空ぞ久しき。我が宿の我が宿の。 菊の白露今日ごとに、幾代つもりて渕となりぬる。 よも尽きじよもつきじ、薬の水も泉なれや、 汲めどもくめども弥増しに出る菊水を、 飲めば甘露も斯くやらんと、心も晴れやかに飛び立つばかり、 有明の夜昼ともなき楽しみは、 栄花にも栄耀にも実にこの上やあるべき。 いつまでか栄花の春は常盤にて、猶幾久し有明の、 月人男の舞なれや、雲の羽袖を重ねつつ、喜びの歌を。 諷ふ夜もすがら、日はまた出でて明けくらなりて、 夜かと思へば昼になり、昼かと思へば、月又さやけし。 春の花咲き紅葉も色濃く、夏かと思へば雪も降りて、 四季をりをりは目の前にて、万木千草一時に花咲けり 面白や面白や。猶いつまでも生の松、栄花の程もつきじ尽きせじ。 春夏秋冬ながめも同じ月も雪も。 花も紅葉もさかゆく末こそ久けれ。 |
訳詞 |
国土が永遠に安全にあれかしと、栄花もいよいよ増して、よろこびはさらに増すのである。その増り草といわれる菊の花、菊の酒を盛った盃をめいめい手にもって飲もうよ。 曲水の宴で流にめぐって来る盃を掬いあげた水なる菊水の流れが早く自分の前を過ぎれば、作歌作詩が間に合わず、手で菊の盃をおしやる菊衣、花の袂をひるがえして、差しても引いても光りかがやく。盃の光がめぐる空は永遠に変わらない。 我が家の菊の上に宿った白露は、日毎に幾夜も積もりに積って、やがては淵となってしまう。それは決して尽きることなく湧き出る薬水の泉であるよ。汲めば汲むほど多く湧き出る菊水を飲むと甘露の味がして心も晴れ晴れとして、飛び立つばかりである。 有明の朝から昼夜と、常に楽しい栄花は世にこの上のものがあろうか、いや、ない。いつまでも続く栄花の春は変わらずして幾久しくあって、有明の月の舞がまわれ、雲の羽の袖を重ねて纏い、喜びの歌が夜通しうたわれる。 日は又出て世は明るく、夜かと思えば昼になり、昼かと思うと夜の月がさやかである。春の花は咲くと同時に秋の紅葉が赤く色濃く、夏かと思えば冬の雪も美しく降って、四季折々の風物が同時に目前に万木千草の花が満開に咲く、面白いことよ、面白いことよ。なおいつまでも歌枕の生の松で、松のように常緑に栄花は尽きることはあるまい。春夏秋冬の風情も月雪花紅葉も色を競って栄え行く末は永遠であるよ。 |
補足 |
二上り長唄。謡物。 謡曲『邯鄲』を原拠とし、五十年の帝王の栄華のさまを叙した部分を中心に、最後の主人公の悟りの部分を、永遠に繁栄が続くことを祝した内容に置き換える。 舞地としては、『寿の甘露』ともいわれ、三世井上八千代の十三回忌に、四世井上八千代が復曲改作したものが「許し物」として現行する。 |