ジャンル |
地唄・箏曲 手事物 |
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作曲者 | 房崎勾当 |
作詞 | 不詳 |
調弦 |
三絃:本調子-二上り-三下り |
唄 |
露そむる。野辺の錦のいろいろを、 踏み分け行けばかすかなる、あやしの竹の編み戸の外面に、 洩れてうつろふ山の井の、水手に掬べば月また宿る。 つらき野分に吹き誘はれて、墨絵に書きし松風の。 音や砧を添へ乳の夢に。馴れてながむる我心。 なれてながむる我心、慰めかねつ更科や、 姥捨山に照る月を見て。 |
訳詞 |
露が置きはじめた野辺の錦のような美しい色づいた中を踏み分けていくと、かすかな賤しい粗末な竹の網戸の外に洩れて流れる山の井の水がある。 水手で掬い上げると、月光がそれに宿るのである。 つらい野分に吹かれ、それに心が誘われて松を墨絵に描いた。 その松風の音に砧の音が添えられて、その音に添え乳されて見た夢になれて、松を感慨深く眺める我が心である。その淋しい我が心は姥捨山に出た名月も何にも慰めにならず、一層淋しい思いのされるものであると詠った古人のように感慨にふけるのである。 |
補足 |
本調子長唄。手事物。 1781年刊『新大成糸のしらべ』に初出。 月の光に、墨絵のような夜景を見て、姥捨山に思いをはせている。 前歌・手事・後歌の形式で、手事で直前の歌詞を受けて砧の音を暗示している。 |