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深夜の月
[シンヤノツキ]

ジャンル 地唄・箏曲
手事物
作曲者 松浦検校 箏手付け:浦崎検校?(松崎検校?)
作詞 広沢某
調弦 三絃: 三下り
箏: 平調子
  山の端に、一連ひとつら見ゆる初雁の、声も淋しく徒らに、
  仇し言葉の人心、飽かぬ別れの悲しさは、
  夢うつつにもその人の、知らぬ思ひの涙川、
  映す姿や鐘の音に、空飛ぶ鳥の影なれや。

  それならぬ。恋しき人は荒き風、
  憂き身に通る裂しさは、君に恨みは無きものを。
  小萩における白露の、くだけて落つる袖袂。

  思ふ心の絶えだえに、虫の声々冴えわたる、
  鳴く音ふけゆく秋の夜の月。
訳詞 秋の夜空を眺めると、山と空の境辺りに、並んで飛んでゆく初雁の声は、徒に淋しさを増すばかりです。気休めの言葉を真に受けて、飽かない逢瀬を別れましたが、その悲しみは夢の中で、誰も知らない涙を流しています。このような悲しみは、川に映った姿のように、かりそめのものなのでしょうか。あるいはまた、鐘の音のやがては消え失せ、空飛ぶ鳥の影のように、儚いものなのでしょうか。

いや、そんなことはありません。恋しい人は今憂き身に荒い風を受けながら、苦しい思いをしているものを。このようなときに、君を恨むなどと言うことは、大変な間違いです。しかしながら、別れて思うほど切ないことはなく、小萩から落ちた白露が、くだけて袖や袂に入ったように、私の涙で濡れています。

秋の夜は更けていく。月を見て私の心は千々に乱れ、思いは途切れがちになるのに、虫の声だけが、冴え渡ってゆきます。
補足 京風手事物。松浦四つ物の一つ。
秋の夜更けに月を眺めながら、別れた恋人を思う心を歌う。
手事はマクラ・チラシがなく、二段構成。
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