ジャンル |
地唄・箏曲 端唄物 |
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作曲者 | 菊塚与市 |
作詞 | 山田あつ子 |
調弦 | 三絃: 三下り - 本調子 - 二上り |
唄 |
あさもよひ、清き流をとめくれば、うつろふ影に、 はぢもみぢ、おもひや色にあらはれん、穂に出でて、 尾花は招く、妻こふ鹿は音にたてて、 忍びあへぬがとがかいな、誰が秋風をこころから、 うらみ顔なるくづかつら、くるてふ宵も人だのめ、 いつかまことを菊の露、おちても匂ふわすれ水、 結びそめしが縁のはし、末白菊の齢をかけて、 変らぬ中は相生の、まつの下風通ひきて、 調も千代の声すめり、其玉琴のたまさかに、 結ぶ契は秋しらで、根さへ枯れめや山路の菊の、 今を盛の香にめでて、夜さへ月にわけなるる、 袖のしら露もすその雫、ほさで幾代の秋やかさねむ。 |
訳詞 |
朝の気分もよし、清らかな流れを訪ねてくると、流れに移る色あせたはじ紅葉、その名のように辱しくて、思いが顔に現れ出ることであろう。穂を出した尾花はこちらを招き、妻を恋う鹿は鳴いて呼び、こらえきれないのは罪なことになろうか。 誰を厭いたか秋風を心から怨み顔な葛かずらその蔓をくるようにやって来るという宵も口だけのことか。何時か真実をききたい菊の露、落ちても匂うことである。 相手から忘れられた水のような秋。水を汲み上げて約束を結んだのが縁の端緒になり、末は白菊白髪の老齢になるまで、変らない中は相生の松の下を吹く風が通ってきて、松風に似た琴の調も千代の栄を歌うのである。 その玉琴のたまさかに、結んだ約束は衰える秋を知らない。松までも枯れることがあろうか、枯れることはない山路の菊。今を盛りの候を味わい。夜さえ月に袖の白露と衣の裾の雫にと分け馴らされて、幾代もかわくことなく栄えることであろう。 |
補足 |
地歌。三下り端唄。 菊を友として暮らしていた朝倉の翁の、1人語り風に作られている。 |