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春重ね
[ハルガサネ]

ジャンル 地唄・箏曲
手事物
作曲者 三絃:古川滝斎 箏:山口巌
作詞 三井家の後室
調弦 箏:平調子
三絃:二上り-三下り
  富士の根の、雪もさすがに春の色を、
  見せて霞める朝ぼらけ。

  [合の手]

  桜咲くかたは、いづくかしら浪の。

  [合の手]

  よする岸辺の水匂ひつつ。

  [合の手]

  昨日今日、いつしか夏にならの葉の。

  [合の手]

  風に落ちくるひと声は、まだはづかしの森蔭に、
  忍ぶも嬉し足引の。

  [合の手]

  山ほととぎす鳴き捨てて、いづちの空も短か夜の。

  [手事]

  隈なく照す月影に、君が調ぶる爪琴の、
  音に通ひ来る松蟲の、声も哀れに秋ふけて。

  [合の手]

  まだき時雨の雲と雲、行き合ふ空の年波に、
  尽ぬ流れの竜田川。

  [合の手]

  めでし紅葉に世のうさを、知らで今年も送り来て、
  重ぬる千代の春ぞむかふる。
訳詞 春の訪れの遅い富士山の峰の雪もさすがに春の色が見えて明け方が霞んで眺められる。
桜咲く方はどこか分からないが、白波の寄せる岸辺の水も潤んでくる。
昨日今日といつか夏になって楢の葉が風に落ちてくるように空から聞えてくる一声はまだ恥しく思って森蔭に人目を忍んで隠れるが、しかし我が世の季節となったと歓んで山時鳥は鳴き捨てて飛んで行く。
どちらの空も短夜である。
曇りなく照らす月光に懐かしい君の弾ずる箏の音に通ってくる松蟲の声が哀れに聞えて秋が更けていく。
季節にはまだ早いが時雨の雲と雲とが行き合う空の年の波が尽きず流れてへって行く竜田川である。
紅葉の名所だけに、観賞した紅葉に世の憂さ辛さも忘れられて今年も送ってきて、また訪れて重ねる千代の春を迎えることになるのである。
補足 京風手事物。明治新曲。
1885年知恩院で歌開きをして初演。
歌詞は、四季の風物を詠み、幾度も千代の春を重ねよう、という内容。
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