ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 山登万和 |
作詞 | 中村秋香 |
調弦 |
箏:雲井調子 三絃:三下り |
唄 |
山寺の、春の夕暮来て見れば、入相の鐘に花ぞ散りける、 実に長閑なる花鳥の、色音めでつつ暮す間に、 いつしか春もくれなゐの、入日を残す夕雲の、 光をやぶる鐘の音、かの待つ宵に更けゆく鐘の声聞けば、 あかぬわかれの鳥はものかはとかこちしも、 今は昔の夢がたり。 ねざめの床のつれづれに、夜中暁いつとなく、 待つ友垣となりにけり。 あはれ思へばなづさへる、この鐘の音わがよのつひの、 何時のときにか告げぬらむ。 |
訳詞 |
山寺の春の夕暮に来て見ると、夕暮を告げる鐘に花が散るのが見られる。 本当に長閑な花や鳥の色や鳴く音で、それを味わいながら暮しておる間にいつの間にか春も暮れ、紅色に染めた入日を残す夕雲の光を破る鐘の音、愛人の来るのを待ってなかなか来ない宵、夜がふけてゆくときに聞く鐘の辛さは、別れたくないのに別れなければならない暁を告げる鶏の声を聞いたときの辛さなど比較にならないほどの苦しさである。 と、愚痴を言ったものの、今となれば若い昔の夢物語である。夜半目が覚めた床での退屈さに、或いは夜中、暁いつとなく鐘が疲れるのを待つ友になってしまった。 ああ思えば、こんなに馴れた鐘の音は我が人生の終りの何時になったら告げないことになるであろう、聞かれなくなるであろう。 |
補足 |
山田流箏曲。中歌曲。 「山寺の春の夕暮来てみれば・・・」という『新古今和歌集』の能因法師の歌を冒頭において、途中に同じく『新古今和歌集』の「待つ宵に更け行く鐘の声聞けば・・・」の歌をはさんで、日々慣れしたんだ鐘の音に寄せる思いを歌ったもの。 |