ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 二世山木検校 |
作詞 | 不詳 |
調弦 |
箏:半雲井調子-四上り平調子 三絃:本調子-一下り-二上り-高三下り |
唄 |
寿は峻山にして千歳ひいで、また蒼海のかぎりなき、 南の星の影ひたす、岩根の波の名に高き、 天の橋立ふみも見ず、みづのえといふみやび男あり、 月雪花の折々に、都の手ぶりうとからず、 心もかろき春風に、釣棹とつて青柳の、糸くり出す一葉船、 かつをつり鯛つりほこり七日迄、家路わすれて住の江や、 浦曲はるかにこぎ出でぬ、ああいぶかしや、 まさしく釣りしは亀なるを、いとやんごとなき上臈の、 をればこぼるる笑のつゆ、初花ざくらに鶯の、 初音そへたるばかりなり、われはそもたつの都のものなるが、 君をともない申さむ、いざもろともにと浦島は、 とこよの国にいたりけり、わだつみの、 わだつみの神の宮居のうちのべの、妙なるうちにいつまでも、 思いなぎさにうちつれて、貝やひろはむ、玉やひろはむ、 君がえにしはむらさきの、深き貝千種貝、 たまのあふせはななわだに、思ひとほした女気は、 風にみだれぬ玉簾、すだれ貝とのへだてはうしと、 くねる目もとのしほ貝は、なでしこ貝のしどけなく、 物思ふとは白玉か、何ぞと露のあだ言葉、 つい口玉にかけられて、手枕ふれし朝寝髪、 たのしき中にふる里を、かつしのばれて立ち帰り、 少女があたへし玉くしげ、明けてのどけききさらぎの、 花のむしろにまどゐして、寿くらべ千代くらべ、 山にくらべてこの君の、高きよはひを祝しけり。 |
訳詞 |
浦島の寿命は険しい山のように千年も変らずに聳え、また青海原のように限りなく広く、寿命をつかさどる南極星の光は海に映っている。 海中の岩にぶつかる波が高く上るように名高い天橋立はまだふみも見ずと歌われたが、その天橋立近くに水江という名の風流男がいた。 秋の月、冬の雪、春の花と四季折々に都の風俗を良くわきまえた人であったが、心もうきうきする春風に誘われて釣竿を取り青柳の細い枝のような糸を繰り出すように小舟を漕ぎ出し、鰹や鯛を盛んに釣って七日間も家に帰るのを忘れて、住江の湾に漕ぎ出した。 不思議にも釣り上げたのは亀であったが、それがすなわち大変高貴な乙女となり、枝を折ればこぼれ散る初花の桜のような可憐な微笑をたたえ、鶯の初音のような美声を持って唱えるのである。 私は竜宮のものであるが、あなたをそこへご案内申しましょう。さあご一緒にと言われて浦島は竜宮の都へ行ってしまった。 竜宮の御殿の奥深く、立派な御部屋にいつまでも、何の心配もなく、乙姫様と連れ立って、貝を拾ったり、玉を拾ったりして二人の縁は紫の深い色の貝にその他いろいろの貝、たまに逢えるのは七曲りもするように流れがいりくんだそのように面倒な思いをして玉を通した輪の苦しい思いをして、それを乗り越えてみて女気の一念である。 風が吹いて乱れない簾、その簾を持って二人の間を隔てられるのは辛いと拗ねた目のしおらしさ。可愛がられてしどけなく、物思いをするということはわからない。露の消え易いように頼りなく信じられない実意のない言葉の口車に乗せられて、手枕に添い寝しての朝寝髪を見せる仲となってしまった。 このような楽しい仲にありながら、故郷を懐かしく慕うようになって、ようやく故郷に帰ってきて、乙姫様から与えられた玉手箱の蓋を開けると冬の寒明けになって、春の長閑な二月が訪れてくる。花の筵に集って寿命くらべ、千歳くらべは高い山をくらべるように、浦島の君の高齢をお祝い申しました。 |
補足 | 山田流箏曲。奥歌曲。祝儀曲。『寿競』とも。 浦島伝説を主題とする。冒頭は、鼓唄ともいう平曲の三重にも似た独吟で始まる。 以下、浦島の登場から、舟の進むさまを表現した合の手をはさんで、乙姫の登場、その誘いによって常世の国へ到着したあと、いわゆる「楽」が入る。やがて、くだけた貝尽しとなって、乙姫の心を表現。 その後、故郷への帰還となって、最後は山の高さに比して長寿高齢を祝って結ぶ。 |