ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 山田検校 |
作詞 | 謡曲「葵上」より |
調弦 |
箏:雲井調子-半岩戸調子-斗上り雲井調子-雲井調子 三絃:三下り-本調子 |
唄 |
一 三つの車にのりの道、火宅の門をや出でぬらむ。 夕顔の宿の破れ車、やる方なきこそ悲しけれ、 憂き世は牛の小車の、廻るや報いなるらん。 廻るや報いなるらん。およそ輪廻は、車の輪の如く、 六趣四生を出でやらず、人間の不定芭蕉泡沫の世のならひ、 きのうの花は今日の夢と、驚かぬこそ愚かなれ。 [合の手] 二 身の憂きに、人の恨みのなほそひて、忘れもやらぬ我が思ひ、 せめてやしばし慰むと、梓の弓に怨霊の、 これまで現れ出でたるなり。 [合の手] 三 あらはづかしや、今とても、忍び車の我が姿。 月をば眺め明かすとも、月には見えじ、かげろうふの、 梓の弓の末弭に立ちより、憂きを語らん。 梓の弓の音はいづくぞ。 [合の手] 四 あづま屋の、母屋の妻戸に、居たれども、 姿なければ訪ふ人もなし。 [合の手] 五 不思議やな、誰とも見えぬ上﨟の、破れ車に召されたるに、 青女房とおぼしき人の、牛もなき車の轅に取りつき、 さめざめと泣き給ふいたはしさよ。 六 もし斯様の人にてもや候ふらむ。 大方は推量申して候ふ、唯包まず名を御名乗候へ。 七 夫れ娑婆電光の境には、恨むべき人もなく、 悲しむべき身もあらざるに、いつさて浮かれそめつらむ。 只今梓の弓の音にひかれて、現れ出でたるをば、 いかなる者とか思召す。 これは六条の御息所の怨霊なり。 八 われ世にありし古へは、雲上の花の宴、 春の旦の御遊になれ、仙洞の紅葉の秋の夜は、 月に戯れ色香にそみ。華やかなりし身なれども。 衰へぬれば朝顔の、日影待つ間の有様なり。 [合の手] 九 ただいつとなき我が心、物憂き野辺の早蕨の、 萌え出でそめし思ひの露、かかる恨みを晴らさむとて、 これまで現れ出でたるなり。 思ひ知らずや世の中の、情けは人の為ならず。 我れ人のためつらければ、必ず身にも報ゆなり。 何を歎くぞ、葛の葉の。 恨みはさらに尽きまじ。 十 あら恨めしや、今は打たではかなひ候ふまじ、 あら浅ましや、六条の御息所ほどの御身にて、 後妻打の御振舞、いかで、さることの候ふべき、 ただ思召止り給へ。 いや、いかにいふとも、今は打たでは叶ふまじと、 枕に立ち寄り、丁と打てば、此上はとて立寄つて、 妾は後にて苦を見する。今の恨みは有りし報い。 瞋恚の火焔は。身をこがす。思ひ知らずや。 思ひ知れ。 十 うらめしの心や。あら、うらめしの心や。 一 人の恨の深くして、憂きねに泣かせ給ふとも、 生きて此世にましまさば、水暗き沢辺の、蛍の影よりも、 光る君とぞ契らん。 [合の手] 十 妾は蓬生の、もとあらざりし身となりて、 二 葉末の露と消えもせば、それさへことに恨めしや。 夢にだに、返へらぬものを、我が契り。 昔語になりぬれば、猶も思ひは増す鏡、其の面影の、 恥しや、枕に立てる破れ車、打ち乗せ隠れ行かうよ。 打ちのせかくれ行かうよ。 |
補足 |
山田流箏曲。奥四曲の一曲。 河東節の手や節回しを効果的に利用した部分など謡曲の構成に応じた作曲がなされ、これに歌い分けや調弦の変化などを用いて場面の展開を表現。 |