ジャンル |
地唄・箏曲 箏組歌 中許(中組) |
---|---|
別名 | 玉川 |
作曲者 | 三橋検校 |
調弦 | 平調子 |
唄 |
一 言はで思ふ心の色を 八重にしも映しそむてふ 情なさに春の月毛の 駒止めていざ水飼はん山吹 二 己が秋とや小牡鹿の しがらむ花の摺り衣 映ろふ波も紫に 乱れそめにし白露 三 河床に伝ふ松風の 音だに秋は淋しきに 衣空木の垣も荒れて 砧もいとど急ぐなる 四 昨日の袖を干しやらで まだき濡れ添ふ朝露に 波も光を打ち寄せて 晒すや賊が調布 五 潮風越して夜もすがら 月に磨ける川波に 砕けて物を思ひ寝の 夢を誘ひて鳴く千鳥 六 とかへる鷹の山深み 鹿は嵐の木枯しに 流るる水の名のみにて 氷を結ぶばかりなり |
訳詞 |
1.山吹のくちなし色のように言葉には出さずに心に秘めているのに、山吹の八重の花に重ねて映し染めたようにはっきりさせろと言う情けなさに、春の月夜に月毛の馬を止めて山吹の花のかたわらで水を飲ませてやろう 2.自分の季節の秋と思ってか、鹿が萩の花にからみついて摺衣を纏っているように見えるが、その色が玉川の川波に映って、波までも紫になっていて、その乱れ染めのようになった白露のように、私の心も乱れ始めてしまう 3.川床に伝わる松風の音だけでも秋は寂しいのに、ウツギの生垣も荒れて、衣打つ砧の音も忙しく聞こえてきて、冬が近いことがいっそう寂しく思われる 4.昨日濡れた袖もまだ干していないのに、もう朝露に濡れてしまったように、昨日の涙も乾かぬうちに後朝の別れをしなければならないが、波に朝日の光が打ち寄せて、賊が家の人が手作りの布を晒しているこの玉川の里を去らねばならぬ 5.潮風が吹き越えてきて、月に輝く川の波も砕けて、その砕ける波のように心を砕いて物思いしながらまどろんでいると、千鳥が儚い夢を誘うように鳴く 6.鷹の羽が抜け変わる高野の山の山奥は深山であるので、鹿の声ではなく激しい嵐の木枯らしの音がする季節に流れる水は、玉川とはいうものの名ばかりの細い流れで、ほとんど流れずに凍っている |