ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 初世山勢松韻 |
作詞 | 工藤春江 |
調弦 |
箏:四上り平調子-半雲井調子 三絃:二上り-本調子 |
唄 |
花鳥の、春や昔の春ならぬ、霞のひまに今もなほ、 おなじ光をあふぎつつ、とはばやとはん夜半の月、 こたへぬかげを朧気に、袖にうつしし花の露、 ぬれて嬉しき木のもとに、あかぬすさびのたはれ歌、 あだなりと名にこそたてれ桜花、かをりをさそふ春風に、 心うかれて見渡せば、それかあらぬか白雲の、 上野の岡の朝桜、花にはたれもこがれよる。 岸辺の船の浮瀬をも、わするる隅田の夕桜、 そぞろあるきに日暮の、きのふ今日と飛鳥山、 あすは雪とぞ降りなまし、おもしろや、 松風かよふ玉琴の、調も文も開け行く、 はるの山田のしまなはの、すゑながき代にひきや伝へむ。 |
訳詞 |
花鳥の季節の春は昔と変った春であろうか、いや、昔と同じ春である。霞の間から漏れる月は今もやはり変わらない光を仰ぎながら、問いたければ問うてみよう夜の月に。しかし答えない。おぼろげな朧月に、なさけなく花の露のような涙で袖を濡らして嬉しい木の様な愛人のもとにあきない慰みのふざけた歌。 頼りにならない変りやすいと評判をとった桜の花。花の香を誘う春風に、心が浮れて見渡せば、花であるか、どうかわからない。白雲のたなびいたような上野の岡の朝桜、その桜花には誰も恋い慕ってやってくる。岸辺の船の浮瀬と憂い辛い時でも、その辛さを忘れさす隅田川の夕桜。散歩に一日を過ごし、昨日、今日、明日と桜の名所の飛鳥山、その花は明日には雪と散ることであろう。面白いことよ。松風の音は美しい琴の音に通い、音楽も手紙も聞いて行く春の山田の山田流の箏のしめ縄は永久に栄えて弾き伝えられることであろう。 |
補足 |
山田流箏曲。中歌曲。追善曲。 有名な古歌の語句をつづりながら、朧月に寄せて個人を追憶した内容。 途中に江戸の桜の名所尽くしが読み込まれ、最後は山田流の発展を願い祝して結ぶ。最後のほうの「面白や」のあとにやや長めの合の手が入り、地が合わされる。 |