ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 二世山登検校 |
作詞 | 不詳 |
調弦 |
箏歌 箏:半雲井調子-四上がり平調子 三絃:本調子-二上り 浄瑠璃 箏:半雲井調子-四上がり平調子 三絃:二上り-本調子 |
唄 |
[前弾] 幾代かは、月日ふりにし姫松の、 とかへり開く花の頃、相生年の名はそれながら、 すぎけむ昔白雪の、 [合の手] つもりつもりし深緑、露もらさじと茂り合ふ、 梢になるる友鶴の、夕のとこの起居にも、 松風をのみかたしきに、翼ならべて万代も、 よそにもなほや葦田鶴の、妹背とちぎるもろは貝、 思ひぞこもる暁の、鐘もひびきていとどしく、 [合の手] 清き浦わの住の江や、浪間に見えし松の春、 野辺の遊びも子の日なる。 松のかむろの雙葉より、ふくむ色香も千代のはし、 かすむ男の引く袖に、たそうつり気な青柳の、 乱れし髪も童鬢、十二ひとへに一年の、 四季の眺めを重ねきて、九重匂ふ花の空、 うたふ蛙のみじか歌、日も長うたに鶯の、 こととふ初音軒端もる、松の下葉の色はなほ、 [合の手] まさきの葛ながき代を、散りうせずして此の宿の、 栄は同じ松が枝の、つきせぬ影こそ目出たけれ。 |
訳詞 |
幾代かの月日が経過した姫松の十返りの開く花の頃、相生の松の年の名はその名の通り、夫婦仲睦まじく過ぎた昔しのばせる白雪のような白髪が積って、濃い緑と露の愛情もしたたらせまいと茂り合っている。 梢に休みなれた雌雄の鶴の夕べの床の起き伏しには松風ばかりを片敷きに、翼を並べて万代に鶴の夫婦と契った二枚貝、思いはこもる暁の鐘も響いて大変別れが辛く思われる。 清い入り江の住江の浪間に見える松の春には野辺に出て松を引き遊ぶのも初子の日の行事である。 遊女の幼児は二葉の子供のうちから色香が千代のはじまりとめざし、気を引く男の誘う袖に誰か浮気心が起きて、青柳の風に乱れた髪も童鬢で、十二単と幾重にも一年四季の眺めを重ねて身にまとうのである。 九重の垣をめぐらした禁中に匂う桜花の下に歌う蛙の短歌や春の日長の長歌と歌う中に鶯の鳴いて訪ねる初音が軒端に洩れてくる。 松の下葉の色はいや増して、まさきの葛の蔓の長い代を花のように散ることなく、此の宿の栄は松の枝のつきない緑の影はめでたいことである。 |
補足 |
山田流箏曲。中歌曲。箏歌・浄瑠璃掛合物。祝儀曲。 長寿の象徴である松を主題として、縁語・掛詞を多用しながら、めでたい松の諸相を綴ったもの。 |