ジャンル |
地唄・箏曲 手事物 |
---|---|
作曲者 | 菊岡検校 箏手付け:不詳 |
作詞 | 京都の野々口某 |
調弦 |
三絃:本調子 - 二上り 箏:半雲井調子 - 平調子 |
唄 |
一 吉野さぞ、くるはたりの菜種さへ、雲井につづく花の色、 もれて浮名が立つとても、よしや厭はじ身一つに、 情を盡す月桜、心残して行く雁の、暮の睦言いざさらば。 二 閉さぬ御代のうるほひに、いとしっぽりと降る雨は、 春の浮草うきふしに、嘘も誠も偽りも、ひとつによどむ渕の水、 思ひの空のもや晴れて、ところまだらと明くる夜に、 いとど澄みける鐘の音は、いくたのもしき里の春。 |
訳詞 |
1.陽春のこの頃は、吉野山辺りは桜が咲いて、さぞ美しいことであろう。この廓の付近は見渡す限り菜の花が一面に咲いて、遠く空まで花の色が続いているように見える。廓でわたしたちの間柄が洩れて、浮名が立ったとしても、決して厭いはしない。我が身一つに引き受けて真心を尽くし、明るく桜のように美しく愛したい。しかしながら、秋に来て春に帰る雁のように、心残して帰ってゆく人ならば、これも仕方がない。昨夜二人で睦まじく語りあったことなど忘れて、さよならしなければならない。 2.太平の恵みを受けて、静かにしっぽりと降る雨は、春の花のように、浮れて暮らす遊女にとっては侘しいことなのだ。廓というところは嘘も誠も偽りも、一つに淀む渕の水のようなところだ。けれども、自分の思っていることが、空のもやが晴れてゆくように晴れ、所まだらに明るくなってゆく夜に澄んだ鐘の音が聞こえる。廓の春はたいへんたのもしいところである。 |
補足 |
京風手事物。 手事にチラシがつく。 |