ジャンル |
地唄・箏曲 手事物 |
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作曲者 | 市川検校 |
作詞 | 堂上方某 |
調弦 | 三絃:本調子 |
唄 |
独思ひを枕に語り。せめて頼みの夢さへも、 麻の狭衣うち冴えて、いとど寝られぬ秋の夜の。 更けて砧の音かときけばな。月ぞ。 知らする我が涙。片敷く袖の、 千々に悲しくながめしに、我身の秋はな。 さつと妻戸の時雨は厭よ。 袖の涙の、露の乱れ髪。言ふに言はれぬ我が思ひ。 |
訳詞 |
独りで思い悩む心を枕に対して話し、せめて夢の中になりとも逢いたく思うが、麻の衣を打つ砧の槌の音が冴えて響くや、心も冴えてどうしても寝られない秋の夜である。 夜が更けて、砧の音を聞くと、月が我が涙をきらきら光らせて 落涙を知らせる。袖の片方を敷いて寝た独り寝に、いろいろ悲しい物思いに耽って寝るが身の秋には妻戸を訪れる時雨はいやであるよ。 来るとも来ないとも当てのない雨、信頼のおけない雨よ。我が袖は落した涙の露にぬらし、乱れ髪に心は乱れて言葉には言えない辛い我が思いである。 |
補足 |
本調子長唄。手事物。 『長歌三箇秘事』ないしは狭義の『三つ物』の一つ。 砧の音が響いてくる秋の夜半の独り寝の辛さを歌ったもの。 詞章が初出する『松の葉』では、手事は6段からなる。手事に当たる箇所に「アイノテ・レンボ」と記され、旋律的には『恋慕物』の類に共通するパターンが多い。 後歌は、恋慕物の小唄を取り入れたものともいい、筑紫箏の『恋慕流』の後歌や津軽箏曲の『砧恋慕』などとほぼ同一詞章。 |