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秋風の曲
[アキカゼノキョク]

ジャンル 地唄・箏曲
新組歌
作曲者 光崎検校
作詞 高向山人
調弦 箏:秋風調子
一 求むれど得難きは、色になんありける、
  さりとては楊家のめこそ、妙なるものぞかし。

二 雲のびんづら、花のかほ、げに海棠のねむりとや、
  大君のはなれもやらで眺めあかしぬ。

三 緑の花のゆきつもどりつ、いかにせん、
  今日九重にひきかへて、旅寝の空の秋風。

四 霓装羽衣げいしよういの仙薬も、馬嵬ばかいの夕べに、
  ひづめの塵を吹く風の、音のみ残る悲しさ。

五 西の宮、南の園は秋草の露しげく、
  落つる木の葉のきざはし、積れど誰かはらはん。

六 鴛鴦えんおうの瓦は、霜の花匂ほふらし、
  翡翠のふすま、ひとりきて、などか夢を結ばん。
訳詞 1.傾国の美女と言うものはたやすく見付からないものである。しかしながら、深窓に育った楊なる女性の天性の麗質は、実にたとえようもない美しさであった。

2.雲のようなふんわりとした美しい髪、花のような香り、海棠がねむっている容姿にも似た楊貴妃を、玄宗は側に置いて一日中眺め尽くした。

3.翡翠の羽で飾った緑の花とも見える天子の御旗は、行ってはまた止まり遅々として進まない難渋な行程であった。今日まで皇居に暮らした身が、これからは秋風に吹かれて旅寝の空を重ねなければならない。

4.かつて華清宮で、青雲のなかまで入らんばかりの高楼から、仙人が奏でるような妙なる音楽が、風のまにまに響きわたってきた霓装羽衣の曲を、二人で聴いた楽しい思い出があるが、今その楊貴妃が空しく死んだ馬嵬を今過ぎようとする夕べ、乗馬のひづめを吹く風だけが当時を語る悲しさよ。なつかしい都はもうすぐそこに望まれてうれしかるべきに、玄宗は従者と涙でしとどに濡れた袖をしぼりつつ、ただ馬の歩むに任せてとぼとぼと都に向かって過ぎ去って行った。

5.西宮や南の園にはいたずらに秋草の露はげく、御殿のきざはしのあたりは紅葉した落葉がつもっているが、誰も掃こうとはしない。

6.おしどりの形をとって作った屋根の瓦には、霜が真白な花のように積っている。かわせみのぬいとりをしたかけふとんは寒々として、誰と共に寝ることが出来ようか。
補足 新組歌。天保組とも。
白楽天の長恨歌を翻案した詞章。部分的に楊貴妃伝にもよる。1,2が楊貴妃が玄宗の寵愛を受けたこと、3,4が楊貴妃の馬嵬での死、5,6が玄宗の悲嘆。
本来的な組歌形式によらず、各歌の拍数は一定しない。『六段の調』と同拍数の長い前弾(序)が付き、『六段(六上り調子)』と合奏されることもある。
箏曲秘譜に詞章と楽譜初出。素材的に『飛燕の曲』、音楽的に『宮の鶯』などの影響を受ける。
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