ジャンル |
地唄・箏曲 明治新曲 |
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作曲者 | 西山徳茂一 |
作詞 | 池田茂政 |
調弦 | 箏:平調子-中空調子 |
唄 |
散りそむる、桐の一葉におのづから、袂涼しく朝夕は、 野辺の千草におく露の、つゆの情けを身にしるや。 たれ松虫の音をたてて、いとどやさしき鈴虫の、 声にひかれてもののふが、歩ます駒のくつわ虫。 哀れはおなじ片里の、いぶせき賊が伏家にも、 つづれさせてふ、きりぎりす。 機織る虫の声々に、合す拍子の遠砧。 面白や、暮れゆくままの大空に、くまなき月の影清き、 今宵ぞ秋の最中とは、いにしへ人の言の葉を、 今につたへて敷島の、道のしをりと残しける。 |
訳詞 |
桐の一葉が散り始めて、朝夕の袂を吹く風の涼しさに、おのづから秋が来たことが知られる。 野辺の草草におく露に、男女の愛情を感じることが一入深い。 誰を待つのか松虫が鳴く。 たいへんやさしい鈴虫の声にひかれて、もののふが駒を進めるクツワムシ。秋のあわれはいづこも同じ、辺鄙の田舎のむさくるしい貧しい家にも、つづりさせとこおろぎが鳴く。 機織る虫がきりはたりと鳴く声に、遠くから聞こえる砧の音が拍子を合わせているようである。 ああ秋の自然は面白い。 暮れてゆくままの大空に、満月は清く輝き、この宵は秋の盛りなのであろう。 秋は詩歌の感興がわく。 それを古の人は和歌として今の人に伝えて、道しるべとして残している。 |
補足 |
手事物形式による明治新曲。 手事はマクラ・手事二段からなり、虫の音や砧の響など常套的な秋の描写がなされる。本手・替手の合奏としても行なわれる。 替手は西山自身のものと、松坂春栄による補作も。 |