ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 三世山勢松韻 |
調弦 |
箏:半雲井調子 三絃:本調子-二上り |
唄 |
[前弾] 海山も、たりととのへる日の本の、 四方の国には昔より、 [合の手] 音に聞えし名所も、数多あれども吾妻路の、 道の奥なる松島の、月雪花の詠めには、 しくものぞなき松が浦の、春の景色の面白く、 [合の手] 空も長閑にうらうらと、霞が浦にたち渡る、 霞をわけて帰りゆく、雁のひとつらあはれあはれ、 いかに止めむい暮れてゆく、春のかたみと咲き残る、 [合の手] 江の県なる桜花、色香もふかし深緑、 小島の松の夕日影、よる白浪に照りそひて、 はるかに見ゆる塩がまや、千賀の浦曲のあまが焼く、 もしほの煙末はれて、 [合の手] 月松島にくまもなく、さしつる影のさやかにて、 あな、いひしらぬ詠やと、見るほどもなく山寺の、 暁つぐる鐘の音、つくづく聞けばいとどしく、 哀ぞ勝るうば玉の、くらき夜もまたちひろある、 竹の浦曲に降る雨を、起きふし聞くも静かにて、 [合の手] げに面白きところぞと、 見れども見れどもあかぬこの島。 |
訳詞 |
海山も充分備わった日本の四方の国には昔から評判の高い名所が沢山あるが、吾妻路の奥州なる松島の月雪花の詠めには他に越して勝れるものはない。 松が浦にたなびく霞をわけて帰って行く雁の一列は風趣深いものである。 暮れて行く春をどうして止めよう、春の形見として咲き残る江の県の桜花。 色香も深い緑なる小島の松の夕日を受けて波にきらきら輝き、遥かに見える塩釜や、千賀の入り江の漁夫の焼く藻塩の煙のたなびく末は晴れて、月は松島にくまなく昇ってくる。 月光はさわやかに照って、実に言語に絶するよい詠である。 こうして見ていると間もなく山寺から暁を告げる鐘の音がしみじみと突き出されてくる。 それを聞けば大変哀れを覚えさせられるのである。 暗い夜も、竹の入り江の千尋の深い浦曲に降る雨の音を、起きても寝ても常に聞く面白さなど、八景それぞれにもつ風趣は如何程味わい見てもあきないこの松島であるよ。 |
補足 |
山田流箏曲。八景物。 松島の八景である、松ヶ浦・霞ヶ浦・江の県・小島の松・塩釜・千賀の浦曲・松島・竹の浦曲を風趣豊かにうたった歌。 |