ジャンル |
地唄・箏曲 山田流 |
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作曲者 | 山田検校 |
唄 |
梓弓、弥生の空もたちかはり、春と夏とのかきつばた、 紫きほふ藤波の、かけてとなのるほととぎす、 ゆかりの人のねざめにも、聞くひと声は夢ならで、 枕の上の五月雨、ふるのなかみちふりし世の、 昔の人の袖の香に、花橘の風通ふ、軒端すずしきゆふづきの、 宿れる露か飛ぶ蛍、焦れこがれてそれかとばかりわすられず、 消えぬ思ひのはかなけれ、ああ我ながら、 君を思へばうらみつわびつ、浦島が子のはこなれや、 開けてくやしきあけてくやしき夏の短夜。 |
訳詞 |
春の空も様子が変わって、春と夏との境の垣をなす杜若、紫色を競う藤波をかけてと鳴く時鳥、縁ある人の寝覚めに初音の一声を聞く時は、夢ではなく枕の上に五月雨のように涙が流れる。 五月雨の降る布留の中道の古い世の昔の人の袖の香に花橘の風が吹き通して行く。 軒端には涼しい夕月が宿る露であるのか、ピカピカ光る蛍は、その火に焦れ焦れた思いはその恋愛のことばかりで忘れられず。 消えない思いは情けないことであるよ。 まあ、自分ながら恋しい君を思えば、恨めしくなり、思い悩ましくなり、丁度浦島太郎が土産にもらった箱を開けたら悔しくも白煙が中から立ち上ったように、こちらは開けたら悔しくも夏の短夜である。 |
補足 |
山田流箏曲。 夏の風物の、かきつばた・藤・時鳥・橘・蛍とあげ、それに恋心をからませて歌った歌。 |